「みんなで楽しめるルールを考える」。パラアスリート戸田雄也さんの体育授業

「みんなで楽しめるルールを考える」。パラアスリート戸田雄也さんの体育授業

アスリート全国学校派遣プロジェクト『アスリーチ』。
11月1日、パラパワーリフティング・車いすカーリング日本代表の戸田雄也さんが、北海道旭川市の東栄小学校にアスリーチ!
障がいを持つ人のことを知る、楽しみながら考える体育の授業を行いました。

「戸田さ~ん」と子供たちの大きな声で迎えられ、戸田さんからは「リアクション(反応)の大きい授業にしたいので、OKの時は手で丸を作ってください。拍手と言ったらみんなで拍手をしてください」と一言。それに応えたとてもコミュニケーション豊かな授業でした。

訪問アスリートご紹介

戸田雄也さん。北海道出身。26歳の時に下肢に障がいを負い、車いす生活に。絶望のなか東京2020パラリンピック開催決定を機にパラアスリートとして挑戦。パラパワーリフティング、車いすカーリングでアジアパラリンピック、世界選手権など4大会に出場。2020年ワールドカップ59kg級では当時の日本新記録を樹立。現在も現役選手として仕事とパラアスリートを両立しながら、パリオリンピック出場を目指している。また、自身の経験を活かした講演活動やラジオパーソナリティーも行っています。

学校や地域のご紹介

札幌に次ぐ北海道第2の人口を有する旭川市。東栄小学校は旭川駅から10分ほど、住宅地にあります。3年前に建て替わり校舎も体育館もピカピカです。

実技と講話の授業

みんなと仲良くなりたいので、「とだっち」とあだ名で呼んでください。子供たちは声を揃えて大きな声で「とだっち」とあだ名を呼びスタートしました。

子供のころから運動が好きで、高校生の大会でスキーを滑る映像を流してくれました。子供たちからは自然と拍手が起こりました。そして、26歳の時新婚旅行先のハワイで突然両足の感覚がなくなってしまったこと、2年間リハビリをおこなったにもかかわらず元に戻らず車いす生活になってしまったこと。それまで当たり前にスキーやスポーツ、仕事ができていたのに何もできない絶望感で仕事も辞め、5年間家に引きこもってしまった話がされました。子供たちは真剣に耳を傾けます。

「あることがきっかけで少しずつ元気になることができましたが何だと思いますか?」の問いに、子供たちは思考を巡らせます。車いすでできるスポーツと出会い、車いすでもスポーツを楽しめると前向きになりました。そして、東京オリンピックにどうしても出場したくてパラパワーリフティングを始めた話、パラパワーリフティング競技の紹介もしてくれました。

そして、とだっちはお風呂に入れるか入れないか?車を運転できるのか?など「とだっちクイズ」と称し、腕を使ってお風呂に入る様子や車を運転しているところなど日常生活を、実際の映像も見せながら話してくれたり、さまざまな障がいを持っている人たちがいろんなことにチャレンジしている「Yes I can」動画も見せてくれました。子供たちの興味は溢れていきます。

また、「筋肉にさわってみる?」と戸田さんの腕の筋肉に触れさせてもらいました。最初は少し遠慮していた子供たちも次々と列をなして戸田さんのもとに駆け寄り、「硬い、石みたい、太い」と驚きの声をあげます。便乗した先生も「凄い、全然違う」とびっくりしていました。

その後みんなで体操をします。パラアスリートが実際に練習前におこなっている体操です。立って水泳のクロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、それぞれの動きで腕を大きく動かし、肩甲骨の可動域、柔軟性を高めていきます。

休憩を挟んで「かたきゲーム」が始まります。ボールを持っている人が「かたき」と言いながらボールを持っていない人に当てに行きます。歩くのは3歩までOK。当てられた人は座ります。これが基本のルール。ここで「とだっちは3歩歩けません。一緒にやりたいし、そして他のみんなも全員が楽しめるルールを考えてください」と宿題が出されます。4つのグループに分かれみんな積極的に知恵をしぼり議論します。

ルール発表の時間です。あるグループから「範囲は半面。ボールは1個」「とだっちは中くらいの力で車いすを1回漕げる」「ボールをキャッチしたら周りの人は動いてはいけない」「3歩進んだら投げる」「ボールを持っている人が違う人にパスするのは無し」などのアイデアが出て、そのルールでやってみます。

ボールを持っている人は3歩で当てられる人を探します。ボールがこぼれるとボールを取りにいくもの、逃げるもの、歓声を上げながら子供たちが一斉に動きます。最初のゲームが終わり、アイデアを出したグループによる振り返りが行われました。「半面は狭かった」の意見に「全面のほうが良い」の声もあがります。「みんなちゃんと止まっていなかった」の意見も。発表したグループに大きな拍手が送られます。

「もう1ゲームやるので他のグループからの提案をください」に大きな声で応えるグループが。「範囲は全面に拡げる」「とだっちはひと漕ぎ」「3歩以内で当てる」などの意見が出ました。

2ゲーム目がスタート。とだっちは早々に当てられてしまいます。みんな思いっ切り楽しんだ後は振り返りです。「全面だと広すぎた。半面だと狭すぎたので、半面と半分くらいがちょうどよいと思った」などの意見がでました。みんなとても積極的に発言します。そして拍手。

アスリートから児童生徒へメッセージ

得意なことをやることで道が拓ける

子供のころはスキーでオリンピックに出場したいと思っていました。しかし、怪我をしてその夢は叶いませんでしたが、パラスポーツと出会ってパラリンピック出場を目指すようになりました。どちらもスポーツで、そこに障がいのあるなしは関係ありません。

もうすでに得意なことがある人は、それを伸ばしてください。まだない人は、いろんなチャレンジをして得意なことを見つけていってください。

障がいのある人と一緒にできるやり方を考えてください

何らかの障がいを持った人は15%程度いると言われています。何かをやる時に障がいがある人がいたら、障がいのある人もない人も一緒にできるようなやり方を考えてみてください。みなさんの年代からそれを意識してもらえると嬉しいです。

授業のまとめ

障がいを持つ人たちのことをたくさん教えてもらいました。常に子供たちのリアクションを引き出そうとする進行で、子供たちもそれに元気よく積極的に応えていました。そして、楽しみながら子供たちにも一緒に考えてもらう授業で、子供たちにとっても刺激になるものだったと思います。

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