パラリンピックメダリスト・高橋勇市さんによる、夢を諦めなかった男の特別授業

パラリンピックメダリスト・高橋勇市さんによる、夢を諦めなかった男の特別授業

アスリート全国学校派遣プロジェクト『アスリーチ』。
11月27日、アテネパラリンピック金メダリストの高橋勇市さんが、静岡県にある県立横須賀高等学校にアスリーチ!

ご自身の経験をもとに“夢をあきらめない!”をテーマにしたお話と、視覚障がい者マラソンの体験を行いました。目が見えないこと、そしてそれをサポートする体験から、さまざまなことを感じ取ってもらいました。

訪問アスリートご紹介

高橋勇市さん。
秋田県横手市出身。
病気により20歳で失明。39歳からアテネパラリンピックマラソンを目指し見事金メダルを獲得。
現在はトライアスロンでワールドカップなどに参戦中。

学校や地域のご紹介

今回体験授業が行われたのは、静岡県掛川市にある県立横須賀高等学校。
同じ中学校出身の生徒が多いことで、顔馴染みの友達との居心地の良い雰囲気があるアットホームな校風でした。
校長先生が高橋さんをお出迎えする際には、ご挨拶がわりに可愛いチョコ菓子のプレゼントが。
パッケージは横須賀高校の校章と、学校の方針である「未見の我」という幕末の武士・吉田松陰氏の残した有名な言葉が達筆に記されたデザインです。
「生徒の書いたもので、今は校長室に飾っております」という校長先生。先生からも生徒からも、おもてなしとあたたかさを感じました。

実技と講話の授業

午後の授業、先生の紹介とともに生徒41名の前に登場した高橋さん。
前半は高橋さんの活躍や、それまでの生い立ちをご紹介。
アテネパラリンピックに挑戦し、見事金メダルを獲得するまでの足跡を取材された映像を生徒たちに披露しました。
生徒たちが生まれる前に活躍した実績と、その裏で汗を流した高橋さんの努力をスクリーンで感じた生徒たちは、静かに見入っていました。

映像が終わると高橋さんが生徒たちに問いかけました。
「皆さんは、野球選手、政治家、歌手、お金持ち、なにか将来の夢がありますか?」
自分の将来をこれから考える時期でもある生徒たちの前で、高橋さんは自分の子ども時代のエピソードを語り始めました。

運動よりも歌うことが大好きだった高橋少年。小学生のときは歌手になることが夢だったとか。
ある日、新任の校長先生の提案で、体力作りの一環として休み時間は運動場を外周するよう全校生徒に指示されます。
はじめのうちはサボって教室で自由に歌の練習をしていた高橋少年ですが、校長先生に見つかってしまい、外周に参加したそうです。

それから毎日、仕方なく走っていると徐々に走るのが好きになった高橋少年。校長先生の提案から1月経つと、外周を続けていたのはなんと高橋少年だけでした。そのおかげて中学校では、徒競走で上位に入るまでに成長しました。
高校ではその足を活かして陸上部に入部。しかし、その頃から目の異常が発覚し、徐々に視力が低下していきます。
運動のみならず、授業や普段の生活にも影響が出てきたことで「見えないことが恥ずかしい、格好悪い」と思うことが増えた当時の高橋さん。

高校卒業後は、目が見えないことにより「危ないから家にこもってなさい」と両親に言われて引きこもる生活になってしまいました。母親の説得により思い止まりましたが、死のうとしたこともあったそうです。

それから盲学校に通って点字とマッサージを勉強して、マッサージ師の仕事に就いた高橋さん。
ある日テレビで流れた「パラリンピック」の情報が耳に届きました。
ここからが、パラリンピアン・高橋勇市さんのスタートとなりました。

授業の後半は実技に移りました。
全盲の感覚で走ることを体験してもらうため、ペアを組んだ生徒たちに渡されたのは、不織布マスクと輪っかになったロープ。

視覚障がい者マラソンでは、目の見えない選手を声で誘導しながら一緒に走る「伴走者」というパートナーがいます。
ペアになった生徒たちは、目隠しをするランナーと伴走者の役に分かれ、ペアは1つのロープを持ち、体育館内に配置されたコーンを蛇行するコースを一緒に走ります。

まずは練習がてらに歩いてコースと感覚の確認。
ランナー役は目を隠し、伴走者役の声と手に握ったロープを頼りに歩きました。
「こわーい!」「待って、無理!」と大きな声を出す生徒たち。
最初は恐る恐る足を運んでいましたが、館内を半分歩くころには感覚を掴んだのか、伴走者役と息のあった動きを見せるペアが増えてきました。
感覚が慣れたところで次は同じコースを走りました。

相手を信頼して軽やかに走る生徒もいれば、方向が定まらずにコーンや前後のペアにぶつかる子など、苦戦する様子も見えました。
2周走った後はペアで役割交代。
お互いの役割を理解しながら走るペア、思っていた感覚と違い苦戦するペアなど、普段とは違う条件の「走る」という動作に、生徒達のチャレンジが見えた時間となりました。

アスリートから児童生徒へメッセージ

夢をあきらめないでほしい

アテネパラリンピックを機に、幾つもの大会に挑戦し、3つのメダルを獲得しました。しかし、30年ほど走り続けていても怖い。競技中に選手同士がぶつかることもよくある話。そんな恐怖があっても、それを乗り越えてゴールに辿り着いたときに味わう達成感は、何物にも変え難い瞬間。

その瞬間を感じるため、そしてそれを伝えるために、ゲストランナーやトークショー、全国どこでも足を運びます。生徒たちにも、そんな達成感を味わえるような夢を持って突き進んでほしいです。

授業のまとめ

全国に出向いている高橋さんからは溢れるようなエネルギーが感じられました。

静岡には実は数ヶ月前にも訪れていた高橋さん。
イベントのゲストとして掛川市内のホテルに宿泊されていたとか。宿の寝心地や近隣の名産の話からはじまり、これまでに訪れた各地のお話にまで広がりました。

生涯現役として走る高橋さんが、横須賀高校の皆さんに大きなパワーを届けてくれたアスリーチ授業でした。

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