夢を諦めないパラリンピアン・高橋勇市さんによる視覚障がい者マラソンの体験授業

夢を諦めないパラリンピアン・高橋勇市さんによる視覚障がい者マラソンの体験授業

アスリート全国学校派遣プロジェクト『アスリーチ』。
11月28日、アテネパラリンピック金メダリストの高橋勇市さんが、静岡県にある掛川市立土方小学校にアスリーチ!

ご自身の経験をもとに “夢をあきらめない!” をテーマにしたお話と、視覚障がい者マラソンの体験を行いました。目が見えないこと、それをサポートする体験から、さまざまなことを感じ取ってもらいました。

訪問アスリートご紹介

秋田県横手市出身の高橋勇市さんです。
病気により20歳で失明。39歳からアテネパラリンピックマラソンを目指し、見事金メダルを獲得しました。
現在はトライアスロンでワールドカップなどに参戦中です。

学校や地域のご紹介

掛川駅から車で20分の掛川市立土方小学校。
山道を抜け、静岡名物である茶畑を越えた先にある、今年で開校150周年を迎えた長い歴史を持つ小学校です。
高橋さんが到着するや否や正門前でお出迎えしてくださった教頭先生。
先生たちのご案内で体育館に向かう道中も、すれ違う生徒たちからは「こんにちは!」としっかりと元気な挨拶がありました。

実技と講話の授業

この日1時間目の授業、先生の紹介とともに4年1組の生徒たちの前に登場した高橋さん。生徒の皆さんは拍手でお出迎えしてくれました。
まずは高橋さんの活躍と、パラリンピックを目指すまでのご自身の生い立ちを紹介していきます。アテネパラリンピックに挑戦し、見事金メダルを獲得するまでの練習や生活が取材された映像を生徒たちに披露しました。

「もっと大きな声で!段々ぼーっとして聞き取りづらいから、走りながら横で指示されても聞こえにくい。」
激しい練習の中で強く指示する当時の高橋さんが映し出されていました。大会を一緒に走る伴走者との過酷な練習の積み重ねを見た生徒たちは、静かに見入っていました。

映像が終わると高橋さんが生徒たちに問いかけました。
「皆さんは、野球選手、政治家、歌手、お金持ち、なにか将来の夢がありますか?」
その場から思い思いに答えてくれる生徒たちの元気な声で授業が盛り上がりました。

運動よりも歌うことが大好きだった高橋少年。小学生のときは歌手になることが夢だったとか。
ある日、新任の校長先生の提案で、体力作りの一環として休み時間は運動場を外周するよう全校生徒に指示。
しかし高橋少年はサボって教室で自由に歌の練習。校長先生に見つかってしまうと勿論、外周に参加。

それから毎日、仕方なく走っているうちに走るのが好きになった高橋少年。ひと月経つと、外周していたのは高橋少年だけでした。そして中学校では、徒競走で上位に入るまでに成長します。
高校では陸上部に入部。しかし、その頃から目の異常が発覚し、徐々に視力が低下。
運動のみならず授業や普段の生活にも影響が出てきたことで「見えないことが恥ずかしい、格好悪い」と思うことが増えた当時の高橋さん。

高校卒業後、目が見えないことにより「危ないから家にこもってなさい」と両親に言われて引きこもる生活。
死のうとしたこともありましたが、お母さんの説得により思い止まりました。

それから盲学校に通って点字とマッサージを勉強して、マッサージ師の仕事に就いた高橋さん。
ある日テレビで流れた「パラリンピック」の情報が耳に入ります。
ここからが、パラリンピアン・高橋勇市さんのスタートとなりました。

授業の後半は実技に移りました。
全盲の感覚で走ることを体験してもらうため、ペアを組んだ生徒たちに渡されたのは、不織布マスクと輪っかになったロープ。
視覚障がい者マラソンでは、目の見えない選手を声で誘導しながら一緒に走る「伴走者」というパートナーがいます。

ペアになった生徒たちは、目隠しをするランナーと伴走者の役に分かれ、ペアは1つのロープを持ち、体育館内に配置されたコーンを蛇行するコースを一緒に走ります。

まずはコースと感覚を確認するため、歩く練習から。
伴走者役の声と手に握ったロープを頼りに、目隠しをしたまま歩くランナー役。
「次、左回りまーす!」「こわーい!」と大きな声を出す生徒たちからは真剣な表情が見えました。
なかなか感覚が掴めず最後まですり足のランナーもいれば、館内を半分歩くころに伴走者役と息のあった動きを見せるペアも増えてきました。

感覚が掴めたところで同じコースを2周走ったらペアの役割交代。
お互いの役割が変わってもスムーズに走るペア、コーンや前後のペアにぶつかって最後まで苦戦したペアなどいろんな結果が見えました。

走り終えた生徒たちから感想を聞くと、
「方向感覚がわからなくて怖かった。」
「どっちに進んでるかわからなかったけど、だんだんコツを掴めたときは楽しかった。」
「目が見えないことが大変だとわかったから、これから白杖を持った人を見かけたら声をかけたい。」
と今日の授業から感じたことをしっかりと自身の言葉で高橋さんに伝えてくれました。

アスリートから児童生徒へメッセージ

夢をあきらめないでほしい

アテネパラリンピックを機に、幾つもの大会に挑戦し、3つのメダルを獲得しました。しかし、30年ほど走り続けていても怖い。競技中に選手同士がぶつかることもよくある話。そんな恐怖があっても、それを乗り越えてゴールに辿り着いたときに味わう達成感は、何物にも変え難い瞬間。その瞬間を感じるため、そしてそれを伝えるために、ゲストランナーやトークショー、全国どこでも足を運びます。生徒たちにも、そんな達成感を味わえるような夢を持って突き進んでほしいです。

授業のまとめ

授業の最後、授業を最後まで一生懸命頑張ってくれた生徒たちへのお礼の気持ちとして、高橋さんがこれまで獲得したメダルたちをお披露目してくれました。手に取って間近で見る生徒たち。その重さは勿論、点字のデザインや、中央にガラスが埋め込まれたものなど、さまざまなデザインに生徒たちからは満面の笑みとともに、驚きと感動の声が溢れました。
夢をあきらめなかった高橋さんが得たもの、メダルだけでなくたくさんの苦労や経験が伝わった1日となりました。

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